柳澤健「1984年のUWF」について。
~その1。
●はじめにー
連載中は読んでおらず、単行本化された著書をひととおり読んでの感想です。
また、前後して行われた幾つかのトークショーでの柳澤氏の発言を皆さんのレポート等々からピックアップしての意見です。
著書とトークショー、それぞれの感想を織り混ぜているので純粋な読書感想文ではありません。
選手は敬称略させていただいております。
ここで引用している証言については、本来の発言の意図を変えない範囲で要約させていただくことがありますのでご了承ください。
(※)ポータルサイト『アワーズ学級新聞』の場をお借りしてのブログですので、他の投稿者のブログも混在しております。
●まず自分は
ブリティッシュ・バタードッグ。
総合格闘技上がりでインディーズでデビュー。試合数が少ないので『プロレスラー』ならぬ『パートタイムレスラー』を名乗ってますが、トークショーの企画・司会やDJほか、できることはなんでもやってます。
兼業レスラーが多い昨今、プロかどうかは自分から名乗るものではなく皆さんがどう思われるかだけですが、少なくとも「ファイトマネー」を頂戴してプロ興行で試合しております。
「俺はプロレスファンだ!」という気持ちはずっと残っています。
●UWFと私
UWFはリアルタイムで直撃ながら新日本も全日本もアメプロもまんべんなく好きだったのでU信者と言うほどにははまりこんでいなかったが、どういう団体だったか・どんな時代だったかは把握しているつもりです。
●読み進めてる段階での感想
歴史の振り返りに頷く一方で、いい加減な記述に首をかしげたりと、モヤモヤしつつ読み進めた。
全編通して面白いと思った読者もおられるでしょうが、この時代のプロレス界のうねり自体が面白いんだから、それを取り扱ったらそう感じるでしょうねぇ。
●読み終えての感想
…ひとことで言えば「まとめ乙」。
「前田史観でないUWFの歴史」「総合格闘技に至るまでの流れを書きたかった」《トークショー》というのが、この本。
今までこの手の書籍をあまり読んでない人にとっては新鮮だったのかな?
過去に出版されたプロレス関連の書籍をいろいろ読んできた自分にとってはさほど目新しい記述はなく、独自取材もされてるようだが、いわゆるまとめサイトのように人の発言や文章を引用して自分の意図に沿うようにつなぎあわせてるな。という感想。
自分もツイートまとめをしてるのでわかるが、できるだけ公平に多様なツイートを拾い集めはするものの、ある程度は自分の意図が入るんですよ。ここは強調したいから太字にしよう、とか。
悪質とされる世のまとめサイトはもっと意図的で、都合のいいフレーズだけ切り貼りしつつ時系列も再配列してますよね。
そしてもうひとつは「嘘」が多い。
「間違い」と言ったほうが柔らかいんだけど、柳澤氏は「事実を集めてパースペクティブにあらゆる角度から検証したので一番真実に近いものを書いたつもり」「正史を書けるのはプロレス村ではない自分しかいない」《Web対談及びトークショー》と自負しつつも著書は間違いだらけで、切り貼りに意図的なものを感じるのでハッキリ「嘘」と言うしかないんですよ。
●そもそも何故この本について語るか
嘘だらけのこの本を鵜呑みにしてしまう人に対して、みんな「ノンフィクション」というものに疑いがなさすぎで、これは非常にまずいな、と感じたのがひとつ。
これが「真実」とされることについて反論せねばと思いつつも、本が売れてるから何を言われても平気な向こうに対して(むしろ反論がキャンペーンに)こちらは長文を書いてもノーギャラだ!という(笑)まぁそれは冗談ですが。
自分は自分なりに書いておかねば…と、ようやく重い腰を上げました。
これも勉強の機会と思いつつ。
UWF旗揚げ日(4/11)に脱稿したかったですが、間に合わず4/12~13の更新になりました。
●徳光康之vs柳澤健
自分が企画している、漫画家・徳光康之先生との大阪でのトークショー『徳光康之ファン烈伝』が図らずも『vs柳澤決起集会』となり、東京での『徳光vs柳澤トークバウト』を控えた徳光先生にはいろいろ「心のセコンド」としてエールを送らせていただきました。
過去の証言を拾い集めて「これと同じ質問してもこういう回答が来るのがわかってるので他の質問したほうがいいですね」「理屈で言い負かしてもモヤモヤは残るので感情をぶつけましょう」とアドバイスをしたのですが、
徳光先生いわく「前田日明ファンを主人公にしたマンガを描いた自分が、前田を悪く書いたこの本と闘わないと、今まで応援してくれた読者を裏切ることになる」ので、前田ファン代表として激情で立ち向かったのは正しいし、結果いい証言を引き出せたので「よくぞ戦ってくれました」と。
対談後に「アリ(柳澤)を自分のリングに引きずり込んだ猪木をイメージしたんですけど、どうだったですかねー」と言う徳光先生に「徳光アリキックで、むこうは血栓症おこしてますよ」と返すと笑っていました。
対談で引き出せたいい証言というのは、以下。
徳光「柳澤先生はノンフィクションをどうとらえるのか?」柳澤「過去を再現する。厳密には違っている。再現だから現実ではない。事象を可能なかぎり正確でエンターテイメント性を求める」
さんざんこの本の視点はおかしくないか?と突っ込んだ後の、柳澤「何らかのバイアスがあるのかもしれない。でもできるだけ正確なカメラを使って歴史を書いていきたいと思います」
徳光「(前略)引用してるこの記述はおかしくないですか?」柳澤「だってその本にそう書いてあったんだもん」
徳光「今、おっしゃったことは正しいとして、なぜ、前田が、ことさらに、ガチに弱かったとか、そういうの書く必要ないじゃないですか!」
柳澤「だってそのほうが面白いじゃん」
……であろう。
徳光先生には、対談前に「森達也監督のFAKEを観るといいですよ」とすすめておきました。まだ観られてないかもしれませんが。
ウソとホントが交錯するドキュメンタリー映画。あ、観てない人のためにネタバレはご遠慮ください!
●いい部分での評価
いろいろ反論する前にほめておきたいのは、こんな本を出して許せんな!と憤る一方で、プロレス好きの仲間と座談会を繰り返す「燃料」になってくれた点。
また、一連のタイトルもパロディ化しやすいため、トークイベントで自分史を振り返る時に「1997年のバタードッグ」として使わせてもらったし、徳光先生も「烈伝に柳澤ファンのキャラクターを出す!」と宣言するくらいなので、これはこれで「語る材料」ではあります。
なにせパロディにするには、柳澤氏の帽子、キャラが立っている!
一方で、他にもいい本はいろいろ出てるから、みんなそっちも読もうぜ!と思うことしばしです。
だって、これだけしか読んでなかったら、判断材料がないでしょ。
●前置きが長くなりましたが…