「アングラってさ、伝説になりやすいんだよ」(ロック画報08・P86より引用)
元ガセネタのギタリスト浜野純氏の発言は蓋し真実である。
「伝説」を辞書を引くと言葉の意味は、「噂・風説」とある。
同じく「伝説的」を引くと「事実かどうか不明だが、広く信じられているさま。伝説として残るほどであるさま」とある。
(広辞苑第六版より引用)
人間は「記録機械」ではない。
だから現実に見聞きしたことを(その中身は主観・客観を問わずに)口承や文章として人々に伝聞されていく様は
まるで終わりのない伝言ゲームの如くである。
人物評・演劇・演奏会等音楽だけに関わらずゲームは駆け巡る。
例えば京都中心に活動したバンド村八分
ボーカル:柴田和志(チャー坊)と元GSザ・ダイナマイツのギター山口冨士夫を中心に結成。
その活動期間より「演奏会がありますよ。と発表されていたが主演しなかった。」「演奏会途中マイクを蹴倒して演奏を中止して帰ってしまった。」
「出演したけど2,3曲演奏しすぐに終わった。」等活動中にして伝説が流布されていたのである。
1970年~1973年京都を中心に活動。ドラムを中心にメンバー交代を繰り返し、公式には1枚のライブ盤のみ発表し、解散。
その後2003~2005年に未発表音源が多数発表される。(すでに元メンバー四人が鬼籍に入っておられる。)
また現在は1997年以来活動中止中(正式な解散表明なし)のバンド裸のラリーズ
1967年結成。ギター水谷孝率いるこのバンドも30年近くのキャリアを持ちながら
公式音源は1991年にCD3点・1992年にVHSライブ・1996年雑誌の付録につけたレコードのみ。
(スタジオ録音を度々行っているようだがほぼ未発表。但し多数の海賊版が比較的簡単に手に入る。)
過去在籍メンバーには、若林盛亮(よど号ハイジャックメンバー)、久保田麻琴、山口冨士夫(元村八分)、ヒロシ(元だててんりゅう・元頭脳警察)等々。
かなり遠回りをしてしまった。
2017年3月7日あるバンドがライブを行う。その名は「ガセネタ」
1977年に結成され、1979年に解散。
オリジナルメンバーは、山崎春美(Vo)、浜野純(G)、大里俊晴(故人)(b)、村田龍美(Dr)
(ドラムは何人か変わっているが、後にスターリンに加入する乾純も一時期参加)
オリジナル曲は主に四曲。「雨上がりのバラード」「父ちゃんのポーが聞こえる」
「宇宙人の春」「社会復帰」
東京・吉祥寺マイナーを中心としたライブハウスや学園祭での活動が主であった。
解散後山崎氏は「タコ」を結成し、1980年代まだサブカルチャーと言葉がなかったが
「天国注射の昼」等企画し人気を集めていたが突如帰郷(大阪)。
浜野氏は灰野敬二率いる「不失者」のベーシストとなるが、その後音楽活動を引退。
大里氏は山崎氏と「タコ」等にも参加していたが、パリに留学し帰国後大学教授となり、2009年永眠。
「インディーズ」という言葉がまだ「自主制作」と呼ばれていた時代、「ガセネタ」活動中は音源を発表せず
長い間1983年発表された「タコ」1stの最後の一曲しか聴くことができなかった。
個人がインターネット等で情報を拡散できるツールを持たない時代に
東京だけでライブを行っていた「ガセネタ」を見聞された人は果たして何人ぐらいであっただろう。
多く見積もっても500人いるか、いないか(もしくはもっと少ない)のではないかと推察する。
かくてアングラは伝説に成り変わる、成り果てる。演者の思いなど無関係に。
当日、ある人は過去に思いをはせ会場に足を運び、またある人は己の頭の中で肥大した幻想と現実の落差を埋める為に足を運ぶことであろう。
(自分は2012年大阪にて山崎氏率いる「タコ」の生演奏を見ておるが、その件はまた別の機会に。)
現在、「ガセネタ」の正式音源は3点あるが手に入れやすいのは1点のみ。
(YouTubeでも聴けるので興味がおありの人はそちらの方がよいかも。)
最期にルー・リードの、「歌詞なんて聞き取れる必要はないんだよ。ロックの場合はね。」
この言葉が似合うバンドの一つであると思う。