「コピー野郎」 竹内義和 01
「勇人くん、これを人数分コピーしといてな」そう言って阪本課長が企画書の束を差し出した。
「あ、は、はい」
上ずった声をあげると、野村勇人は慌てて立ち上がった。よろけたその様を見て、何人かの女子社員がクスクスと笑った。
勇人は、下卑るように撫で肩を竦めた。
勇人は課長に近付きながら思った。40づら提げてコピーを命じられる俺ってなんてカッコ悪いのだろう、と。
女子社員の目が自分の背中に突き刺さっている。顔が燃えるようだ。見ると、新入の五藤由香も唇を歪め笑っている。
「これだよ」
課長は企画書の束を突き出した。
課長は勇人の頬を企画書で叩くと、囁くようにこう言った。
「ほら、これを人数分、会議までにな」
勇人は、忠誠心を見せるためか思わず最敬礼をした。部内が爆笑に包まれた。
あいつ、まさに社畜だよな……そのほとんどが、勇人に対する嘲笑だった。勇人は、頬を染めた。
企画書を恭しく受け取った時、感じた視線。振り向くと新入の五藤由香の目。いい年して、コピー?その目は、そう語っていた。
勇人は、これが宮仕えなんだと言いたかった。気づくと由香の前に立っていた。
部内の全員が勇人に注目していた。何か言わなければ……。勇人は焦った。
由香は相変わらず蔑んだ目で勇人を見ていた。目立たず引っ込み思案でひたすら暗い性格の勇人は、その目にたじろいた。
部内の人間全員が勇人に注目している。何か言わなければ……。勇人は精一杯の勇気を出してこう言った。
「この企画書を、コピーしといて」
「え?」