「コピー野郎」 竹内義和 02
由香がすっとぼけた声を出した。この女、完全に俺を馬鹿にしてる。ここで何か言わなければ。何かを。
勇人は、部内の視線を意識しながら、こう言った。
「だから、コピーをしろと言ってるんだよ」男性社員から、おおっとどよめきかわ起こった。由香の顔色が変わった……。
由香は、可愛らしい顔を般若みたいに歪め勇人に言った。
「どうして私が?私、コピーとるためにこの会社に入ったんじゃないのよ!」
勇人は戸惑った。自分の立場を守るための一言が思わぬ反撃を生んでしまった。
みんなの目が自分に集中している。ここは、謝るべきか?
勇人は、頭を働かせた。謝るのは、無しだ。社会人としての常識を教えてやろう。
俺様を舐めてる女子社員にガツンと言いながら、少しの優しさをトッピングする……これだ。
「そもそも、コピーというのは」
そう話を始めた時の由香の顔!眉間に皺がより、口角が鋭く上がった。
「由香はね、コピーとるために会社に来てるんやないです」
由香のあまりにもの剣幕に、勇人はタジタジとなってしまった。
「あ、いや、そういうわけや……」
シドロモドロになっている勇人に、由香は畳み掛けた。
「じゃ、どういうわけなん?あなたが、コピーしろと」
勇人は、反撃しようと、 「コピーはさ、ホラ、やはり新人がね」
そう言うと、由香は両手を広げた。
「へえ、この会社、まだこんな原始人がいるんだ」
勇人は、嘲る若い女を前に最後の蛮勇を振り絞った。
「ごちゃごちゃ言わんと、早くコピーをしろよ」