「コピー野郎」 竹内義和 03
勇人は、精一杯怖い表情を作った。が、由香はびびる風情もなく、仁王立ちになると腕を組んだ。グイと巨乳が盛り上がった。
「コピーしろ?パワハラでしょ」
勇人の頭に、コンプライアンスの文字が浮かび上がった。阪本課長が、コホンと空咳して席から立ち上がった。
課長は少しふざけた調子で、
「いやぁ、野村君、若い娘にイッポン取られたね」そう言うと、改めて企画書の束を勇人に差し出した。
「ハッキリ言うぞ。僕はね、君にコピーを頼んだんだ」課長の目尻が釣り上がり口調が変わった。
「だから、ちゃんとコピーしろよな」
課長の剣幕に、勇人の顔はひきつった。
「ほら、早くコピーしろよ」
「は、はいはい」
勇人は、企画書の束を抱えるとコピー機に走った。緊張のあまり、足が絡まってよろめいた。
「産まれたての鹿みたい」不様な格好に由香がそう言うと、部内が爆笑に包まれた。
あいつ、課長より年上だよ。あの人、あんな若い子にも舐められてるのね。
勇人の耳にいろんな声が入ってきた。耳を塞ぎたかったが、両手はコピーのためにとられている。
勇人は、部内の好奇の目と心ない言葉に翻弄されながらコピー機のカバーを押し上げ、企画書をセットした。
自らに向けられた侮蔑の視線と嘲笑の中、コピーをとる。歯を食い縛り、嗚咽を堪えながら。
古いコピー機は、1枚複写するたびにガーッと大きな音をたてた。
由香は、同僚と目配せして舌を出している。
「けっこう、様になってるよな」 課長はそう言ってガハハと笑った。