「コピー野郎」 竹内義和 04
「何、この音?油切れ?」由香が顔をしかめた。
「うちのコピー機、かなり中古なのよ」課長はニヤッと意地悪な笑みを浮かべた。
「でもやな。だから、似合うんよ。同じ古ぼけた同士で。野村君、だろ?」
勇人は、「へへっ」と卑屈に笑って頷いた。
表面的には、従順にコピーをとっている勇人だったが、心の中は千千に乱れていた。
年下の課長のからかい、新入社員の由香からの蔑み。部内の侮蔑に満ちた視線……その全てが耐えられなかった。
それでも勇人は、愛想笑いを浮かべてひたすらコピーをとり続けた。「クソッ!」
心の中の悪態は、誰にも伝わらず勇人の神経組織に澱のようにこびりつくだけだった。
「クソッ!クソッ!クソッ!」もしも勇人の気持ちが顔に現れるなら、その顔は地獄の悪鬼そのものだったろう。
小心者の勇人は、魂の声を封じてコピーの最後の1枚をとり終えた。
勇人は逃げるように休憩室に入った。とにかく1人になりたかった。
あのみんなの目。この俺を獣みたいに思ってやがる。洗面所の鏡を見る。そこに映ってるのは、ショボくれたオヤジ。ハァとため息が出た。
と、その時……。横の給湯室から声が。
「あのコピー野郎がさ」
コピー野郎?それって俺のこと?
勇人は聞き耳をたてた。給湯室には、女子社員が集まっている。彼女たちは、勇人のことをネタにして笑っているのだろうか?
「いくつなの?見た目、52だけど」
「意外と若いって。課長より2個上かな」
「え?37?嘘でしょ」