「コピー野郎」 竹内義和 05
女子の囁きに勇人は、身を硬くした。コピー野郎とは俺のことなんだ。さっきのコピーのやり取りが俺をコピー野郎という渾名にしてしまった。
勇人は、耳を塞いだ。聞きたくなかった。だが、容赦なく女子社員の蔑みは続く。
「あいつ絶対変態よ。エロ爺よ」
給湯室の彼女たちは、湯呑みを持ってこの休憩室に来るに違いない。顔を合わせるかも。勇人は、非常口からこそっと退出しようとした。
出た所に、数人の女子社員がいた。更衣室に繋がる通路だった。男が来る場所ではない。女たちの目が、三角になった。勇人の顔がひきつった。
目の前に経理の穂谷華菜がいた。メガネ越しの可愛らしい瞳が怯えた表情を見せていた。こんな所に何故?そう言いたげな面持ちだった。
勇人は思った。俺は今、この女に確実に誤解されている。なんとかしないと。勇人は、愛想笑いを浮かべて両手を前に出した。
「キャッ」
華菜が後退りする。誤解をときたい勇人が、それを追いかける。みんなの後ろにいた由香が顔をしかめ呟いた。
「マジで変態」
華菜は由香の背後に回り、鋭い目で勇人を睨んだ。女子社員のいくつもの瞳が勇人に突き刺さる。ここは引き下がるしかない。勇人は踵を返した。
女子社員の蔑みの視線が背中に突き刺さるのを感じながら、勇人は休憩室へと逃げ込んだ。誤解だった。
あの扉が、更衣室に続いているなんて知るよしもなかった。なのに、彼女たちからは、変態野郎と思われてしまった。
いつもこうだった。小学校の頃から誤解される運命だった。