「コピー野郎」 竹内義和 06
小学校に入学した時、同級になった可愛いい女の子から面と向かって「爺ぃ」と呼ばれた。
今思い返しても胸が痛む。近視用の眼鏡を掛けたら「メガネ爺ぃ」と呼ばれた。
その子の名前は夏希といって、大人びたおしゃまな子だった。ある日勇人は学校の帰りに夏希を待ち伏せした。
それは抑えきれない「たぎり」だった。幼い勇人の心を支配していた負の感情。自分を馬鹿にした夏希に対する怒りと悲しみ。
その気持ちを直接彼女に伝えようと、勇人は夏希を待ち伏せしたのだ。学校と夏希の家の中間にある小さな神社。そこの社の陰で、夏希が来るのを待った。
その時の勇人は、深い意味なんて考えていなかった。ただ、夏希に一言伝えたいだけだった。「僕、傷ついたよ」と言いたいだけだった。
社の裏で、じっと息を潜めていた。もう空が赤い着物をまとい始めたというのに、夏希の姿が見えない。何をしているのだろう?と……。来た!
夏希は何かしら可愛らしい歌をハミングしながらやって来た。原色のセーターに、同色のミニスカートが、少しおしゃまな彼女に似合っていた。
この子が、あんな渾名をつけた……。勇人は、鉛色した不快感が自分の全身に充満してくるのを感じた。何かが、勇人を突き動かした。
勇人は、社の裏から現れると、おもむろに夏希の前に立った。一瞬、夏希の顔に恐怖の色が浮かんだ。
その色は、瞬く間に蔑みのそれになった。勇人の胸が軋んだ音をたてた。
「いいこと。ゴンに言うわよ」 夏希は、冷たく言った。ゴンとは、学校の体育教師の渾名だった。