「コピー野郎」 竹内義和 08
級長の佐知子の顔がふいに浮かんだ。少し下膨れの丸い輪郭、顔の半分はある大きな瞳、小さく上向いた赤い唇……なんとも魅力的な女の子だった。
だけども、それ故に怒りが湧いてくる。この俺をナナフシジィ?マジ、小学生の時から爺ばかりだ。佐知子、許さないよ。覚悟しな。
抑えようとした。あの可愛らしい顔をグチャグチャにしたい。何回かこみ上げてくるそんな思いをやっとのことで抑えようとした勇人だった。
しかし……。その日、学校に行くと、背中をドンと叩かれた。見ると佐知子だった。笑いながら、校舎の向こうへと走って行った。
勇人は、校舎の窓ガラスに自分の背中を写した。何かが書かれた白い紙が貼られていた。あの佐知子が貼ったものだ。
「変態ジジィ」そう朱色の文字で書かれていた。勇人の顔がまさに朱色に染まった。
佐知子の首に手をかけている自分の姿が脳裏に浮かんだ。だ、駄目だ。
直接、手を出すのはよくない。肉体的に危害を加える気持ちなんて毛頭ないし。ただ、彼女に思い知らせたい。
人をこけにするにも程がある。何なんだ、ナナフシとかジジィとか。直人は考えた。あの子の精神に訴えてみようと。直人は家の押入れにあった緑色のシーツを手にした。
勇人は、緑色のシーツを細い体に巻き付けその合わせ目を同じく緑のテープで留めた。腕にも足にもシーツを巻き、頭にも巻いた。
両手には納屋にあった鎌を持って、それを高々と上に掲げた。そう、自らを巨大なカマキリに見立てたのだった。この姿で、佐知子を待ち伏せるのだ。