「コピー野郎」 竹内義和 09
佐知子が学校帰りに通る道……。そこに深い草むらがあるのたわった。そこだ。そこで、佐知子が来るのを待つのだ。
いつもの帰り道。通りかかる佐知子。飛び出す緑一色の俺。佐知子からしたら、どう見ても、巨大なカマキリにしか見えないだろう。これで、驚いてくれたらいい。
緑の布を全身にまとい鎌を持つと、ほんとに昆虫に変身した気持ちになった。頭から触角が突き出たかのように、末端の感覚が鋭敏になっている。
勇人は、その格好で自転車に乗り、しかるべき草むらに待機した。赤い夕日が緑の布を朱色に染めた。草むらの間から佐知子が見えた。
隙間から見える佐知子。性格が悪いが、相変わらず可愛らしい女の子だった。勇人は、両手の鎌を顔の横に構え待った。
こいつは、俺をナナフシジジィと呼んだ。人を虫呼ばわりする奴は虫の恐怖を味わえばいい。佐知子が近づく。ゴクンと喉が鳴った。鎌を持つ手に力がこもった。
鎌を振りかざして緑色の勇人が這い出る。佐知子の顔が歪む。只でさえ大きな目が飛び出るくらいひんむかれる。
勇人は、胸のすく思いに口元を綻ばせた。だが、瞬く間に佐知子はそれが勇人だと見抜いた。
「なんだ。虫ジジィか。驚いて損したじゃないの」そう嘯いた。
佐知子は「フン」と鼻を鳴らして口元を歪めた。その憎たらしい表情が勇人の内面を爪で引っ掻くように蹂躙した。
俺はこの女に何回ジジィと呼ばれたことか。心底侮蔑されているのだ。
「あぅあぅあぅ」勇人は呻きながら、手に持った鎌を降り下ろした。血糊が飛んだ。