「コピー野郎」 竹内義和 11
勇人はギリギリと歯を食いしばった。医者は唇の端から粘液を垂らして勇人に迫った。
「あの傷跡は、生涯残るんだよ」
医者は、フフフと笑って、「お前という狂人のために、あの子は……」
勇人は両耳を塞いだ。聞きたくない。聞きたくない。嗚呼……。
勇人は闇雲に腕を振り回した。聞きたくないんだ。聞きたくないって言ってるだろ!
気がつくと、勇人の両手が医者の喉を絞めてていた。見る見る彼の顔がパンパンに腫れ、赤く鬱血し始めた。
バネの切れたゼンマイ人形のように暴れた出した医者は、叫んだ。「隔離病棟行きだ!」
隔離病棟に放り込まれた勇人は、ほぼ中学生活を棒にふった。高校に進学してからも、トラウマのためか悪夢に苛まれ何度も入退院を繰り返した。
ただ、勇人を狂人と罵り、勇人の精神を追い詰めた、あの医者からは逃れることは出来た。長年に渡る入退院が、彼の老化を促進した。
勇人が、本格的に社会復帰出来たのは30歳の誕生日を迎える三日前だった。
しばらくは、実家に引きこもっていたがゲーセンのバイトを皮切りにノラリクラリではあるけれど仕事も始めだした。
腰を落ち着けるわけではなく、気分次第で辞めたりが10近く続いた。そんな時……。
遠い親戚から「アワーズ金属加工研究所」という会社を紹介された。従業員300名くらいの中小企業だった。
勇人は、いつでも辞めれるよう嘱託で参加した。得意先営業のみだったから、精神的にも問題があり、人見知りが過ぎる勇人でも務められた。あれから、7年がたった。