「コピー野郎」 竹内義和 12
勇人は、会社の中の人とは極力馴染まず、ひたすら大人しい人物を演じた。
からかわれたり、いじられたりすると線が切れて自分を見失うに違いない。そんな己の姿は2度と見たくはなかった。
社内で、人と目をあわさないのも、目だった行動をしないのも、その理由からだった。
それから数年、勇人はあえて日陰の道を歩むことによって大したトラブルもなく会社員としての生活を全うしていた。
確かに、毎日が砂を噛むように味気ないものだったが、それはそれで幸せだった。
というのも、小学校時代からの老け顔、それに病的なまでに人見知りな性格……。
誰にも相手にされない状況は、勇人にとって決して辛いものでは無かった。同期入社の阪本一久からは事ある毎に意地悪されたが、無抵抗主義でやりすごした。
阪本がスピード出世で係長になり課長になっても妬みも嫉みも無かった。勇人は社員を無視し、勇人は社員を無視した。
無視されることは、平気な勇人だった。ジジィだの虫けらだのと囃し立てられる方が余程辛かった。
しかし、だからと言ってそんな毎日が快適だったわけではない。恋人はともかく友達すらいない砂を噛むような生活……。
灰色の日々を救ってくれたのは、経理の釜田さんだった。
給料の天引きのことで経理に行った時、初めて勇人は釜田さんに会った。可愛いい人だなと思った。
税金や年金について丁寧に説明してくれた。それも、勇人の目を見ながらだった。
25歳くらいかなと思ったが、実は40前との噂を聞いた。独身で彼氏もいないらしい。惹かれた。