「コピー野郎」 竹内義和 14
釜田さんだけにはそんな姿を見られたくない。だから、カッコつけて由香にコピーを頼んだけれど、待ってたのは、由香の冷徹な薄ら笑いと、課長の非情な言葉。
そう、釜田さんの前で挽回の余地のない恥をかかされたのだった。それからの勇人は、より心を閉ざすようになった。
女子社員の侮蔑も、課長の叱責も我慢出来る。無視すればいい。コピー野郎と呼ばれようが、変態爺と思われようが平気だ。
だけど、釜田さんからは同情されたくない。憐れまれたくない。もし釜田さんをそんな気にさせたのなら、俺にコピー野郎という汚名を着せた輩を許さない。
再び隔離病棟に放り込まれないために、ずっと自粛してきた勇人。そんな生活での唯一の幸せが、釜田さんだった。
俺から釜田さんを奪ったのは、俺をコピー野郎と名付けた五島由香!
許さない。許さない。許さない。勇人は、覚悟を決めた。病院に入ってもいい。あいつに天罰を!
開き直った勇人に、怖いものはなかった。捕まってもいい。
由香に思い知らすことが出来たら、静かにこの会社を去ろう。帰って行く先が、刑務所でも隔離病棟でもいい。
心の奥に抑え込んでいた何かがモゾリと顔を出すのを実感した。禍々しい笑みが浮かんだ。目に狂気が走った。
勇人は、まず会社に長期休暇を申請した。日頃から真面目一方なので、すぐに受理された。
夕暮れの朱に町が染まる頃、ニット帽を被り、白いマスクをし、薄いサングラスという出で立ちで会社の裏口近辺の更地の塀辺りに潜んだ。
由香はいつもこの更地を突っ切って駅へと向かう。