「コピー野郎」 竹内義和 15
息を殺して由香を待った。いずれ、奴はここを通る。ニット帽に白マスクの勇人は、塀にもたれながら意識を目と耳に集中させた。
と、その時。来た! 工事中の作業用扉を開けて、由香は姿を現した。
性格はともかくその容姿は相変わらず可愛らしい。勇人の心臓は高鳴った。
勇人は由香の前に立った。一瞬、由香はヒッと小さく悲鳴をあげた。しかし、すぐに元の冷静な表情に戻った。
ニット帽に白マスクが勇人だと見抜いたのだろう。
「待ち伏せしてたんだ」由香はバカにした口調で吐き捨てた。
いつもだったらその一言で尻尾を巻いていたはずだ。
勇人は、グイッと前に出ると、素早く由香の手首を掴んだ。
「ちょっと、何するのよ!」
由香は驚いた表情をした。まさか、この男がこんな大胆なことをするなんて。
「やめて」
「報いを、受けてもらうよ」
勇人は、ほくそ笑むと握った手首を捻り自分の脇に引き寄せた。
固定された由香の顔に勇人の顔が近づいた。肉の腐ったような臭いがした。
「報復って?何の?」由香が唇を尖らせた。
勇人は鼻と鼻をくっつけて、「何の?とぼけるなよ。わかってるやろ。散々俺をこけにしやがって」
「こけに?」
「コピー野郎だよ」
「コピー……?」
由香は瞬間戸惑った表情を見せたが、すぐに皮肉な笑みを浮かべた。
「ああ、そのことね。コピー野郎……か。言い得て妙だわ」
勇人は由香の顎を突き上げた。
「俺をバカにしやがって」
「何を言ってるのよ。あれは、私じゃない」「え?」
「名付けたのは、釜田さんよ」