「コピー野郎」 竹内義和 16
由香はやっぱりねと薄ら笑いを浮かべた。
「無理もないわ。名付け親があの釜田さんとは思わないわよね」
勇人は嫌々をするように頭を振った。あの優しい釜田さんが、そんなことを……?いつも俺に笑顔をくれた。
元気に挨拶してくれた。休憩所では隣に座ってくれた。
あんなに優しかった釜田さんが、俺をコピー野郎呼ばわり?そんなこと信じられない。
由香は茫然としている勇人のに、「釜田さんは会社の看板娘。あなたになんか鼻も引っかけない。わかるでしょ?」
確かにそうだ。勇人はその場にへたりこんだ。俺が甘かった。夢を見ていた。
考えるまでもなかった。あんな美人が俺なんかに好意を持つはずがない。最初からわかっていたのだ由香に言われるまでもなく。
勇人の目には涙が溜まり、鼻から水が垂れた。悲しさと悔しさ、勘違いしていた自分に対する恥ずかしさ。勇人は訳のわからない声をあげ、走り出した。
頭の中で濁流が渦巻いた。心の内側が、鋭いカッターの切っ先でズタズタにされたように痛んだ。
気づくと、会社の裏口に来ていた。腫れぼったい目で前を見ると、そこに彼女がいた。
「か、か、釜田さん……」
勇人は、ブルルと身体を震わせた。全身の血が沸騰し逆流した。
突然、目の前に現れた勇人に釜田さんはフリーズした。
その時に浮かんだ苦悶の表情。それが雄弁に真相を物語っている。やっぱり、彼女が俺をコピー野郎と嘲ったのだ。
優しさも思いやりもみんな偽りだった。あれもこれも全部。許さない。いや、許せない。愛が憎しみに転じた。