「コピー野郎」 竹内義和 17
どうして俺に優しくした?どうして俺に気を持たせた?
勇人は、茫然と佇む釜田さんの肩を掴んでへ大きく揺さぶった。彼女は無抵抗で、なすがままだった。
勇人の手は肩口から首筋へと移動し力が入った。釜田さんは苦しそうに息を吐き出したが、それでも無抵抗だった。
どうして俺に気をもたせた?
勇人は知らず知らずのうちに首を締める手に力がこもっていた。釜田さんの咽の奥から異様な呻き声がもれた。
あんなに白かった彼女の顔が紫に染まった。口の端に泡が溜まり、血の色が滲んだ。
「ご…め…ん…」
微かにそんな言葉が聞こえた。
散々、俺をバカにして今さらごめんだと?勇人は両の手に力を入れた。
釜田さんの顔面にじわりと汗の粒が滲み、化粧が剥げ落ちた。額から鼻筋にかけて赤黒い傷痕が現れた。
勇人はハッとなった。こんな傷があったなんて。
釜田さんは首を締められながらも、
「覚えてるよね?」
消え入りそうな声だった。彼女の顔を縦断する不気味な傷痕……。
釜田さんの厚化粧の理由はこれだったのだ。彼女は言葉を続けた。
「カ、カマキリの鎌で…」
勇人は訝しげに、
「カマキリ?カマ?」
と呟いた。指先に力が籠った。彼女の顔は鬱血で異様に膨らんでいた。
釜田さんの顔が膨張し、古い傷口がパックリと開いた。鮮血が溢れた。勇人の全身に悪寒がはしった。
「緑のカマキリ、覚えてる?」
もがきながら、彼女はそう言った。
緑のカマキリ?勇人はハッとして、彼女を見た。
「き、き、君は?」
心臓が口から飛び出そうになった。