「コピー野郎」 竹内義和 18
言われてみれば、面影があった。確かにあの子だ。中学校の同級生、中村佐知子。勇人を虫ジジィ呼ばわりしたあの女だ。
勇人が緑の布を纏い、手に持った鎌で顔に切りつけたあの佐知子。喉を絞められながら、佐知子は血を吐くように声を出した。
「あの時のこと、謝りたかった」
釜田さんの血を吐く告白は続いた。
「あの時は、何も解ってなかった。あなたが、あんなにも傷ついていたことなんて。
自分の顔に一生消えない傷が出来て初めて気づいたの……。
いつか貴方に面と向かって謝りたかった。あなたの心をズタズタに切り裂いてごめんなさいって」
その目から急激に光が失われた。が、言葉の嘔吐は止まらなかった。
「あなたが、病院を出てからずっと追いかけた。この会社に就職したのも近づくため。謝る機会を探した。
最初は同情だった。でも、いつしか愛情に変わった……」
勇人の手に自らの手を重ね、グッと絞めた。
釜田さん……中村佐知子の顔は、極限までに膨れ上がったていた。
「私のこの傷と貴方の心の傷、互いに庇い合って生きて行きたかった」
嗄れた声。手を離さないといけない。そう思っても指に力が入り続けた。このままではもたない。死んでしまう。
「私を許してくれる?」
彼女は、俺を想ってくれていた!
勇人は思わず手を弛めた。佐知子の顔に血の気が戻り、美しい肌色になった。
だけど吐く息は途切れ、顔色はすぐに紙のように白くなった。
「釜田さん、許すよ。だから息をして」
勇人は初めて自分を愛してくれた人の華奢な肩を抱き締めた。