「コピー野郎」 竹内義和 19
佐知子は勇人の腕の中で息をひきとった。最期の言葉は「悪いのは……由香さん」だった。由香?由香って五島由香?やはりあいつか。
あの腐れ女が、俺をコピー野郎呼ばわりをし釜田さんを死に追いやった。
「ああああ」
勇人の奇声。臓腑から滲み出た哀しみの雄叫びだった。
由香は会社の裏口から社内に戻った。管理室の横にある倉庫に入った。待ち合わせ時間より早いが、課長は来てる筈だ。
奥にある古いコピーが、鈍い音をたてていた。これから逢い引きだと言うのに。コピー野郎じゃないんだから……由香はあの変態の顔を思い浮かべて唇を歪めた。
倉庫の奥のコピー機にもたれ掛かってる坂本課長の背中に、由香は声をかけた。
「いつまで仕事してるの?言われた通りコピー野郎には釜田が名付け親って伝えたわよ。
あいつ、目が吊り上がって。彼女を殺す勢いだったわ」
由香は言うと、いつものようにスカートを脱ぎ出した。
その場で全裸になった由香はコピーの前に立っている男に抱きついた。
「どうしたのよ。いつものように激しく抱いてよ」
男はピクリともせずガクンと腰を落とした。大の字になった課長の顔は真っ黒だった。
「トナーだよ。喉の中も一杯。だって俺、コピー野郎だもんね」
コピーの向こうから姿を現した勇人。そう言ってニヤリと笑った。由香はヒッと悲鳴を飲み込んだ。
「あなたがこんなことを?」
「もちろんだ。殺す前に坂本から全部聞いたよ。君は、坂本が横恋慕した釜田さんを許せなかったんだな」
「あいつ、泥棒猫よ。だから罰を与えた」