「コピー野郎」 竹内義和 20
罰?罰を与えただと?
勇人は嘯く由香の裸体を凝視した。
この女、顔もスタイルも抜群だが人間として大切なものを無くしている。
「罰を与えないといけないのは、お前だ」
勇人は猿のように素早く動くと由香の髪の毛を掴んだ。思いっきり後ろに引っ張ると顎が跳ね上がった。
由香の顔をコピーのガラス面に押し付け、そのままカバーを後頭部にあてがい、体重を乗せた。
頬が引き吊り、鼻がひしゃげた。ちょうど喉の部分がコピーの縁に当たるのだろう、由香は奇妙な唸り声をあげ手足をバタつかせた。
勇人は両手でコピーを抱え込み、由香の動きを封じた。
勇人は連続コピーのスイッチを入れた。軋んだ音をたて白熱光が移動した。
由香が渾身の力で身体を揺さぶった。勇人はカバーに全体重をかけ、由香の首を挟みつけた。
受け皿にコピーが滑り落ちた。異様に鼻が強調された由香の歪んだ顔が写っていた。
その目は恐怖に染まっていた。
1枚、また1枚、ガラス面に押し付けられた由香の顔が刷り出されてくる。
苦悶の表情が極限にまで強調され、口から垂れる唾液も目が内出血していく様も克明に焼き付けられていく。
死への数分が幾枚もの連続コピーとなって動画を見るように再現され、やがて醜い死に顔へと至る。
鈍い音をたて、ひたすら死に顔を刷り出すコピー機。
受け皿から溢れた感光紙が床に散らばり、幾つもの由香が勇人を見詰めていた。
終った。
これで全てが終った。
なのに、勇人は停止ボタンを押さなかった。
押せばコピー野郎自身の機能が止まるとでも思っているかのように……。